上のニュースについて。「9.11」と聞いて、意味の分からない人はいないと思います。あれからもう7年も経つのですね。
たまたま聞いていたラジオで、繰り返しアメリカで何か事件が起きたことを伝えていたので、テレビをつけてみると、世界貿易センタービルが崩れ落ちるあの映像。何度も何度も見ているうちにどんどんSFでも見ているような感覚になったのを覚えています。
翌日は山形の実家に飛行機で帰ることになっていたのですが、当然ながら空港は物凄い警戒態勢。武装した警官が隅々まで配備され、日本ではないどこかになっていたのが思い出されます。
あの事件に起因して生じた憎しみの炎は、今もイラクやアフガンで燻ぶり続けている。そしてあの事件もまた、アフガン、パキスタン、サウジアラビアの抱えていた憎しみによるものなのかもしれない。彼らがなぜ憎しみを抱くのかと言えば、それはロシアやイラン、アメリカ抜きには語れない…。「憎しみの連鎖」という言葉がよく言われます。それは親しい人が殺されたから、殺したやつを殺すというようなレベルではない。その人、その国に刻まれた歴史に深く根を張った問題であるがゆえに、この問題はもはや解決ができない。
諦観しつつも、彼らの憎しみを遠くに感じることはしたくない。憎しみに共感すべく、世界史を学び直す日々です。
さて、今回は文章長いです。土佐礼子のように脱落する方もいらっしゃるかも…
今年の「9.11」は新司法試験の合格者発表の日でもありました。「法曹の質」問題を比較的熱心に取り上げている朝日新聞ではこんな記事内容でした。
法務省は11日、法科大学院(ロースクール)修了者を対象とした08年の「新司法試験」の結果を発表した。3回目の今年は、74校の6261人が受験し、2065人が合格。合格率は33%で前年の40.2%を下回り、2回連続して下がった。3校では合格者がゼロ。法務省が設定した合格者数の目安(2500〜2100人)も下回った。 「法曹の質の低下」に対する懸念が相次ぐなか、10年までに合格者を毎年3千人に増やす政府の計画をめぐる議論にも影響を与えそうだ。(以上、9/11朝日新聞ネット記事より抜粋)
わしの友人たちは果たしてどうだったのでしょうかねえ。受かっていると良いけど、33%だから間違いなく何人かは不合格でしょう。まあそれはそれとして、これはやっぱり「法曹人口の急拡大に反対」である弁護士会側に追い風となるのでしょうか。
先日、といっても7月ですが、この論点についての日本弁護士連合会の提言書が出されました。これにはどうも納得できなかった。彼らの言いたいことは、だいたい以下の通り。
法曹の養成は、法科教育・司法試験・司法修習・OJT(実務での訓練)という一連のプロセスで行われる。ところが、
・法科教育では、ロースクールの教育の質がバラバラである
・司法修習は期間も短縮され、また法科教育との有機的な連携(?)も取れていない
・そんな状態で法曹人口が一気に増えると、OJTが最後の重要な育成の場となる
・しかし法律事務所の経営能力の限界もあり、新任弁護士全員にきちんとしたOJTを行うことはできない
・OJTのやりかたも「E-ラーニング」など工夫しているけど、限界がある
…ということで、「司法試験合格者数を増やし、2010年に3000人にするという構想はよろしくない」と、そういう話でした。
彼らがこういうことを言うその根底には、「法曹の質が低下している」という論点があります。「法曹の質」とは、日弁連側によると「人格識見・法実務能力・法創造能力・事務所経営能力・公益活動意欲」の5つらしいです。そして、新司法試験を合格した人たちは、仕事をする上で必要最低限度の法的知識や法的理解力が低下していることが「指摘されている」らしいです。
そういう能力の低い法曹が世に溢れてはいけないから、法曹の質がきちんと担保されるようになるまで、無理に法曹人口を拡大するのはやめましょう、と言いたいわけですね。
わしの感覚からすると、「何を耄碌したようなことを言っているんだろう」という気になります。
まず、新司法試験を合格した人たちの法的知識の不足について。これは「誰に」「指摘されている」のでしょうか。クライアントが「全然わかってないね」と指摘しているのか、刑事訴訟法廷で対峙する検察が「そんなことも知らんのかね」と指摘しているのか、傍聴人が「この弁護士バカだ」と指摘しているのか。別に誰も指摘していないと思います。さも第三者が言っているように主張しているけど、結局は自分たちがそう思っている、そう思いたい、そんなレベルじゃないでしょうか(新聞が勝手に「世論が許さない」とか書いてるのと同じレベル)。
これがもしも、一斉に調査をして、統計上有意な結果として上がっていれば話は別ですよ。そういうこともなく、「n=1」的な話で、しかもマッチポンプなわけですから、なんと卑怯なのだろうと思ってしまうのです。逆に旧試験を受けてきた人たちは、法的知識は完璧だったのでしょうか。そんなことはないと思います。誰だって新人時代は未熟だし、上の立場から見れば「全然なってない」と思うこともあるでしょう。
はっきり言ってしまうと、その新人が「同じ旧試験を通った後輩」であるのと「(苦労した)自分たちとは違う(楽な)ルートで来たやつら」であるのとで、バイアスのかかり方が違っているだけではないのでしょうか。要は身内に甘い、と。
もうひとつ気になるのは、残りの「人格識見」「法創造能力」「事務所経営能力」「公益活動意欲」に関して。素人ながら申し上げたいのは、この能力に関しては旧試験組より新試験組の方が上なのではないかということです。というのも、新試験から弁護士になる人には、普通の民間企業から転身してやってきたような人がいっぱいいるからです。
わしは法学部を出ているということもあり、弁護士やっている人も結構知っております。今は会社勤めですので、社内外の企業人もたくさん知っている。「n=1」的な比較をさせていただくと、「人格識見」は弁護士の方が低いと思います(失礼ながら)。特にコミュニケーション能力と、世の流れを把握する力ね。これは話してみると如実にわかる。弁護士の方は往々にして、自分の土俵でしか話をしないのですな。
「事務所経営能力」はどうでしょうかね。駆け出し弁護士の状態をもってして旧試験組と新試験組を総体的に比べれば、企業出身者の多い新試験組に分があるのは明らか。択一・論文の勉強ばかりやっていた旧試験組の若手弁護士たちは、果たして財務諸表が読めるのでしょうか(B/Sなんて言葉すら知らないかも)。
「法創造能力」についても、企業で実務を経験した人であれば、一度や二度は「業界のこういう縛りがおかしい」とか「特許手続のここが現実的じゃない」とか、考えたことがあるはず。法を解釈し、新しい構成から論点を解決することに加えて、現実に法を変えていくポテンシャルも、相対的に高いのではないでしょうか。
「公益活動意欲」も、これは今の時代のせいもあると思いますが、圧倒的に旧試験組が劣るでしょうね。むしろゼロに近いんじゃないのかな(また怒られるようなことを…)。若い人たちがNPOにどんどん就職する時代。企業の対社会への姿勢が、メセナからCSRに捉えなおされた時代。公益活動の原動力は、むしろ経済界にこそある。これまで法曹が自分たちの仕事の範囲を超えて、組織として社会貢献を行ったことがあったでしょうか(また独立性が大事とか反論するのかな)。新試験組はきっと、法曹と社会との関わり方自体を変えてくれるだろうし、わしは少なくとも、それを期待しています。
ということで、まとめますと、
・法曹として最低限必要な法的知識が新試験組に欠けているかは疑わしい
・ていうかマッチポンプであり、身内に甘いだけである
・残りの素養に関しては、むしろ新試験組の方が優れているような気がする
・というわけで、法曹の質は低下していないんじゃないか
・以上より、別に法曹人口拡大に歯止めをかける必要はないんじゃないかと思う
てな感じでしょうか。
国民に圧倒的な支持を得た小泉首相が規制緩和路線に踏み切ってからしばらく経つと、そのときに鳴りを潜めていた勢力が、雨後の筍のように出てきては、ああだこうだと言い始めますね。この件に限らず。
規制緩和の真髄は「ダイバーシティ」であり、「利用者に自由に選んでもらう」ということ。日弁連の提言書で最も納得がいかなかったのは、彼らの提供するものは「サービス」であり、何が良くて何が悪いのかを決めるのは、その利用者であるという視点がごっそりと抜け落ちていたことです。結局は「殿様商売を一緒にやるのにふさわしい仲間かどうかは、俺たちに決めさせろ」という、業界視点での話に過ぎない。
いやあ本当に、弁護士って素敵な職業だと思いませんか?


新司法試験についてはどうにも迷走が続きそうですね。
我は最初から法曹増員には不賛成だけれど、新制度をスタートさせたからにはある程度データが取れるまでは続ける必要があるように思いますね。
もちろん数字で測れない要素はいくらでもあるだろうけど、それにしてもまとまった結果が見えない内から「やはりやめたほうがよい」などと言うのは昔に戻したいという保守的な目的が前提にあるわけで、客観的な観点に基づいているとは言い難いですね。
いくつかみなさんに請求したい費目があるけど、次回やるときにちょっと色をつけさせていただくということで(笑)、ひとまずはクリアといたしましょう。
考えてみれば新司法試験の当初の目論見って、合格者が7〜8割って話だったよなー。それがこんなことになってしまって…。「質の低下」が言われたり、合格者数が低迷したりの原因の引き起こしたはずの公明党は、相変わらずキャスティングボードを握って政権を担当することに躍起です。彼らはどう考えているのかぜひ聞きたいところですね。